【05】フレックスタイム制で発生した残業を翌月に繰越処理できないか?
【 Question】
当社では、一部の従業員にフレックスタイム制を適用しています。1ヵ月の労働時間に偏りが生じた場合、月をまたいで貸借することも可能とききました。改正労基法(平成22年4月1日施行)により、月60時間を超える時間外が生じた際、5割の割増が必要になりますが、労働時間の貸借制度を利用して、影響を緩和できないでしょうか。
【Answer】
~認容されるのは前払いのみ~
フレックスタイム制では、労働者に始業・終業時間の決定をゆだねます。本人の仕事の割り振りよっては、特定の月の総労働時間が月の所定労働時間に達しないケースもあり得ます。原則通りに処理すれば、その月は賃金カットせざるを得ません。
しかし、家計支出に配慮すれば、基準内賃金のカットはなるべく避けるのがベターです。このため、便法として、一定条件の下、労働時間の貸借が認められています。
貸借が可能なのは、「1精算期間内の労働時間に不足があった場合も、賃金カットせず、不足分を次の精算期間中の総労働時間に上積みさせる」ケースです(昭63・1・1基発第1号)。いわば「賃金を前払いし、後から精算する」形になるので、合法と解されています。
この反対に、「1精算期間内の労働時間に過剰があった場合、所定の賃金分のみ支払っておき、それを次の精算期間中の総労働時間に充当させる」ことは、認められません。1精算期間内の残業分を支払わず、翌月に回すので、全額払いの原則に反するからです。
ただし、有力学説の中には、「労働の多い月にも少ない月にも定額の月給制とすることは労働契約の自由にゆだねられている。したがって、貸借制を定めれば、有効な労働契約となり全額払いに違反しない」と解くものがあります(菅野和夫「労働法」)。説得力のある話ですが、ここでは行政による公式見解にしたがっておきましょう。
賃金の前払いパターン(不足分が先に来て、後から労働時間を上乗せ)に限って運用する場合も、一つ、問題が残ります。前月の不足分を翌月働かせた場合、不足分も含め、すべて翌月の労働時間となります。労基法は実労働時間主義ですから、前月の繰り越し分も含め総労働時間が月の法定労働時間の総枠を超えれば、そこから割増賃金の支払い義務が生じます。
一般的には、月の所定労働時間を法定労働時間の総枠より少なく設定している会社で、「法定枠-所定労働時間」の時間数を限度として、繰越しを認める例が多いようです。そうすれば、繰越し分についても割増賃金が発生しません。
このように、労働時間の貸借制度を用いる場合も、時間外割増の支払いに関しては、貸借の有無に関係なく、「その月に実際に何時間働いたか」が問題となります。「月60時間」の計算をするときも、当然、同じように考えます。前月の不足分を翌月働いた場合、その分も含め、残業の累計が60時間を超えれば、5割の割増賃金を支払わなければなりません。
(2010年4月)
記事投稿日: 2015年07月05日
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