シフト制労働者に対する適切な労務管理
「シフト制」とは、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態を指します。 このような形態には、その時々の事情に応じて柔軟に労働日・労働時間を設定できるという点で契約当事者双方にメリットがあり得る一方、使用者の都合により、労働日がほとんど設定されなかった、労働者の希望を超える労働日数が設定されたなど、労働紛争が発生する事例も確認されています。 近時では、新型コロナウイルス感染症の影響で時短営業をやむなくされ、それによるシフト削減で、収入の減少した労働者の生活困窮の実態が社会的に問題視されています。本稿では、厚生労働省が今年1月に公開した「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」を概説し、併せてシフト削減の当否が争われた訴訟の一例をご紹介します。
1.労働条件の明示
労働契約の締結時には、労働者に対して、契約期間や就業場所などの一定事項に関する労働条件の明示が義務付けられています(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条)。 中でもシフト制労働者に対する労働契約では、以下の点について留意が必要とされています。
【始業・終業の時刻】 労働契約の締結時点で、すでに始業と終業の時刻が確定している日については、労働条件通知書などに単に「シフトによる」と記載するだけでは不足であり、労働日ごとの始業・終業時刻を明記するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等を併せて労働者に交付する必要があります。
【休日】 具体的な曜日等が確定していない場合でも、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明記する必要があります
2.シフト制労働契約で定めることが考えられる事項
前項の明示事項に加えて、トラブル防止の観点から、シフトの作成・変更・設定などについて、現状の勤務実態を考慮したうえでルールを決めておくと良いでしょう。次に厚生労働省の示す例をご案内します。
作成
- シフトの作成時に、事前に労働者の意見を聞くこと
- シフトの通知期限 例:毎月〇日
- シフトの通知方法 例:電子メールなどで通知
変更
- 一旦確定したシフトの労働日、労働時間をシフト期間開始前に変更する場合に、使用者や労働者が申出を行う場合の期限や手続
- シフト期間開始後、確定していた労働日、労働時間をキャンセル、変更する場合の期限や手続
設定
- 作成・変更のルールに加えて、労働者の希望に応じて以下の内容についてあらかじめ合意することも考えられる
- 一定の期間中に労働日が設定される最大の日数、時間数、時間帯
- 一定の期間中の目安となる労働日数、労働時間数
- これらに併せて、一定の期間において最低限労働する日数、時間数などを定めることも考えられる
3.勤務実績の評価
シフトを大幅に削減したことの当否が争われた地裁判例があります。 この裁判は、介護関連事業を営む会社に対し、シフト制労働者の原告が、雇用契約書や労働条件通知書の「週5日程度」としている出勤日の記載を基に下回った日数に相当する賃金の支払いを請求したものです。 裁判所は「雇用契約書及び労働条件通知書…における出勤日の記載は『週5日程度』というもので、文面上は本件施設が営業していない日曜日も出勤日の候補に含むものである上、『業務の状況に応じて週の出勤日を決める。』との記載も伴うものであるから、これをもって直ちに、本件雇用契約における週の所定労働日数が5日であったと認定することはできない」とはしたものの、「本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、上記各契約書の記載のみにとらわれることなく、本件請求期間より前の控訴人の勤務実態等の事情も踏まえて、契約当事者の意思を合理的に解釈して認定するのが相当である」と判示し、週4日を所定労働日数とする合意が成立していたと認定しました。 勤務実態から所定労働日数についての労使合意が認定された点については、前述の留意事項と併せて、注意が必要といえそうです。
4.さいごに
労働時間などの明示の曖昧さは、運用に柔軟性を与える一方、恣意的な運用により賃金の未払い訴訟に発展した事例もあります。書面と勤務実態と留意すべき点をあげましたが、一番大切なことは、労使の合意ということに落ち着くでしょう。シフト制を導入している企業は、合意形成が得られる運用がなされているか、今一度確認してみると良いでしょう。
記事投稿日: 2022年03月23日------------------
« 業務上腰痛の発生状況と労災認定 | 働き方改革推進支援助成金のご案内 »