『#KuToo』運動からみる、みだしなみの強制について

jiko_kujiku_highheeled 今年の6月3日に、「職場でヒール・パンプスの着用を強制しないこと」を求めたオンライン署名と要望書が、厚生労働省(以下、厚労省)に提出されました。これにより厚生労働委員会や海外メディアでも取り上げられるなど、大きな話題となりました。働き方が多様化する昨今、会社は従業員の服装について、どのように考えていくべきなのか、検討してみましょう。

 

1.『#KuToo』運動

今回の運動は、一人の女性が、職場でヒール・パンプスの着用を求められていることについて、SNSに投稿したコメントが発端となったもので、『靴』・『苦痛』・『#MeToo』をあわせた『#KuToo』というハッシュタグと共に拡散し、多くの共感を呼びました。上述の署名は、性差によるヒール・パンプスの強制を禁止するよう、厚労省より通達を出してもらうことを目的としたもので、約18,800筆もの署名が集まりました。

 要望書の受け止めについて質問された根本厚生労働大臣は、「一人ひとりの労働者が働きやすい就業環境を整備することは大変重要」としながら、女性にヒール・パンプス着用を義務付けることについては、「それぞれの業務の特性」があるので「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」を超えているかどうかでパワハラか否かを判断する、という考え方を示しました。

 

2.従業員にみだしなみを強制できるのか?

現行の労働法では、会社が従業員の服装に対して行う規定や業務命令を規制するものはありません。一般に、会社は、“労働契約関係に基づいて企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権能”を持っていますので、およそ業務に関する限り広汎な命令を下し得ますが、“それが従業員の法的利益を侵害する性質を有している場合には、相当な根拠、理由もないままそのような措置を執ってはならない”とされています(下線部、最一小判平8・3・28抜粋)。

強制が否定された裁判例としては、ハイヤー会社が口髭を生やした運転手に対して内規に基づき発した「髭を剃るように」という業務命令について、口髭が、服装・頭髪等と同様元々個人の趣味・嗜好に属する事柄であり、本来的には各人の自由であることから、労働者に本件業務命令に従うべき契約上の義務はないと判断したものがあります(東京地判昭55・12・15)。ただし、この判断には、内規を作成した当時は意図的に生やした口髭が一般的ではなく、内規に記載された「髭」が、無精髭を指すのか口髭を指すのか曖昧な点や、本件発生に至るまでは、会社も運転手が口髭を生やしたまま乗車勤務することを了知していた事実も認められるなど、諸々の事情が勘案されていますので、その点はご注意ください。

先述の裁判例の他にも、茶髪を改める命令を拒否したトラック運転手の諭旨解雇を無効とした例や、別性容姿での就労禁止に従わなかった同一性障害者の懲戒解雇を無効とした例など、会社の業務命令が従業員側の法的利益を侵害していると判断されたケースは多数あります。

しかし一方で、就業規則服装規定に違反して、脱帽して勤務していたバス運転手に対する処分が争われた裁判では、制帽の着用義務規定には合理性があり、運転手にも制帽を着用できない健康状態にあったことをうかがわせる証拠はないとして、会社側が勝利した裁判例もあります。

 これらの内容を踏まえると、従業員へのみだしなみ強制は、まさに先述の根本厚生労働大臣の発言のように、「それぞれの業務の特性」にあわせて「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」に限り、有効になると考えられます。

 

3.会社が行うべき具体的な対応策

 前項にて、従業員にみだしなみを強制する業務命令について、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱するような場合、無効となる可能性があることをご紹介しましたが、では、どのような命令であれば相当な範囲であり、有効と捉えられるのでしょう。

前述の裁判例で示された考え方を纏めると、次のような対応が、命令の背景にあることが必要であると想定されます。

 

・みだしなみ強制命令の根拠となる服装規定等を作成周知し、かつ、時代遅れで有名無実な規定はないか、適宜見直しをおこなうこと

・服装規定等に定める内容は、業務特性を反映し、必要かつ合理的な内容であること

・服装規定等に違反した就業状態を見過ごさず、時機を外さず指導や制裁等をおこなうこと

 

4.さいごに

 働き方や働く人が多様化していく中で、今までは会社も労働者も当たり前に受け止めてきた制度や慣習についても、様々な観点から、その必要性を見直さなければならない時代となりました。自社の職場慣習が、従業員にとって、不利益・不都合を強制するものとなってはいないか、よく検討してみましょう。

 記事投稿日: 2019年08月26日
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