年次有給休暇の取得促進に向けて
厚生労働省では、毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」と定めて、年次有給休暇(以下、年休)を取得しやすい環境整備の推進を働きかけています。本稿では促進期間を前にして、年休取得促進に活用されている「年休の計画的付与制度」の概要と現況、年休の取得促進事例をご紹介いたします。
1.計画的付与制度の概要と現況
概要
「年休の計画的付与制度」とは、年休の付与日数のうち5日を除いた残りの日数について、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。この制度を利用することで、事業主にとっては労務管理がしやすく計画的な事業運営ができ、労働者にとってはためらいを感じずに、年休を取得できるというメリットが期待されます。
現状
独立行政法人労働政策研究・研修機構が、令和2年2月に実施したアンケート調査によれば、年休の計画的付与制度が「導入されている」と回答した企業の割合は42.8%となりました。
しかし「導入されている」と回答した企業でも、労働者調査の回答では「導入されている」49.9%、「導入されていない」13.4%、「わからない」34.4%となっていることから、社内の制度周知が進んでいない様子がうかがえます。
また、前述の労働者調査で年休の計画的付与制度が「導入されていない」「わからない」と回答した方のうち、導入を希望しない方の理由では、「自由に使いたいから」が73.3%、「計画どおりには休めないから」が22.6%などとなっており、柔軟・確実に年休を取れることが望まれているようです。
2.年休取得の取り組み事例
計画的付与制度は、あくまで一定の年休取得日を割り振る制度です。そのため先の調査のように、企業と労働者との間の温度差が生まれることもあります。更なる年休取得促進への参考として、労働者に寄り添い年休取得率100%を達成した企業の事例を「年次有給休暇取得促進特設サイト」よりご紹介いたします。
■事例
1.X社(製造販売業、従業員数約30名)
① | 多能工化、マニュアル整備で仕事の属人化を防ぐ:誰がいつ休んでも対応できるように社員の多能工化を進めると共に、業務マニュアルの作成・改訂による、業務の平準化を行いました。 |
② | コミュニケーションを促進し情報共有体制を整備:コミュニケーション研修を実施して、部署間の距離をなくしました。またスケジュールの共有も行い、情報共有の仕組みを整えました。 |
③ | 年休取得を動機づける休暇名称の導入:年休取得を動機づけるため「スポット休暇」「アニバーサリー休暇」「リフレッシュ休暇」といった休暇の名称を導入しました。 |
2.Y社(歯科業、従業員数約22名)
① | 年休は1日単位だけでなく半日単位も導入:学校行事の参加なども考えて1日単位のみではなく、半日単位でも取得できるようにしました。 |
② | 情報共有の体制を整える:毎週1回「カンファレンス」と呼ばれる全体会議を開くと共に、ビジネスチャットツールを導入し、リアルタイムで情報を共有できるようにしました。また電子カルテを取り入れ、タブレット端末を全スタッフに配布することで、いつでも誰でも患者の情報を知ることができるようにしました。 |
③ | 余裕のある勤務体制:全体の業務量から必要なスタッフの人数を考え、必ず一人多くスタッフを採用することで、人数に余裕をもたせ、休みやすい環境を構築しています。 |
3.さいごに
本稿では、年休の計画的付与制度や、その他年休取得促進施策をご紹介しましたが、制度や施策ありきで取り組みを進めると、企業の実態に即さずに、逆に年休取得を阻害する要因となってしまう恐れもあります。本稿で挙げた2社も、自社の課題を認識したうえで対策を立てており、まずは課題の洗い出しから始めることが重要でしょう。
働き方の変化・多様化のなかで、年休取得率や柔軟な年休取得は、採用活動において他社と比較されるポイントとなっています。10月の年休取得促進期間を一つの機会と捉え、自社の課題を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。
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