脳・心臓疾患に関する労災認定基準の見直し

厚生労働省は、いわゆる過労死等(※)に関する労災認定の基準を見直すべく、検討会で論議を進めていましたが、その報告書が7月16日に公表されました。本稿では、近年の過労死等の労災補償状況に触れつつ、労災認定の基準がどのように見直されようとしているのかご案内します。

※「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定義されています。

1.脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

 『令和2年度「過労死等の労災補償状況」』によると、直近5年間の脳・心臓疾患の労災請求件数、支給決定件数などは次のとおりです。

■脳・心臓疾患の労災請求件数、支給決定件数の推移

令和2年度について、請求件数は前年度比152件の減となり、支給決定件数は前年度比22件の減、うち死亡件数は前年度比19件減の67件でした。

過労死の認定基準は、平成13年の改定により「長期にわたる疲労の蓄積が脳・心疾患の発症原因になる」との考え方が盛り込まれ、残業が「直近1カ月で100
時間超」か「2~6カ月間平均で月80時間超」の場合は、 業務との関連性が高く労災認定が妥当とする「過労死ライン」が示されました。この労災補償状況の取りまとめにおいても、時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」の27件が最も多く、また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」の75件が最も多い結果となっています。

2.認定基準の見直し

今回の検討会報告書では、過労による脳・心臓疾患の労災認定基準については、勤務の不規則性や身体的負荷など他の要素も踏まえ、柔軟に判断するよう現行の認定基準を見直すべきと示しています。

そのなかで「業務の過重性の評価」に関する検討結果の概要は次のとおり記載されています。

■検討結果の概要

脳・心臓疾患の発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる業務による疲労の蓄積が脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすとする考え方は、現在の医学的知見に照らし是認できるものであり、この考え方に沿って策定された現行認定基準は、妥当性を持つ。
「短期間の過重業務」及び「長期間の過重業務」において、業務による負荷要因としては、労働時間のほか、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他の事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)の各要因について検討し、総合的に評価することが適切である。
長期間の過重業務の判断において、疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間に着目すると、①発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働(おおむね100時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合、②発症前2か月間ないし6か月間にわたって、著しいと認められる長時間労働(1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合には、業務と発症との関連性が強いと判断される。
労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないが、これに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

4.さいごに

本報告書を受けた労災認定基準の改正により、過労死等としての労災支給決定件数の増加が見込まれます。
時間外労働の上限規制が法制化されていますが、これからは労働時間数だけに着目するだけでなく、実態として健康に影響がないかを確認していくことが、労災を防ぐために大切になるでしょう。これをひとつの機会として、今一度現状の労働時間管理や労働環境全般について、実態把握をしてみることをお勧めいたします。

 記事投稿日: 2021年08月25日
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