新型コロナウイルス感染症の労災補償について
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、政府は緊急事態宣言を再発令しました。発令対象の地域住民に対して不要不急の外出自粛を求める他、企業へのテレワークや時差出勤のお願い、飲食店への営業自粛要請などが行われています。
企業においては、より一層の感染防止対策を実施するほか、感染者が出た場合には労災の対応も考慮しなければなりません。折しも労災給付事例も数を重ね、行政から事例紹介の資料も出てきました。本稿では同感染症における労災認定の基本的な考え方と、職種に着目した事例を交え、概説いたします。
1.基本的な取り扱いについて
新型コロナウイルス感染症の労災補償については、厚生労働省から発出された通達「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて」により「本感染症の現時点における感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要となる」としています。その概要は以下のとおりです。
考え方
細菌、ウイルスなどの病原体による一定の疾病の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。
国内
<医療従事者等>
業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる。
<医療従事者等以外であって感染経路が特定された者>
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となる。
<上記以外の者>
業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する。
国外
<海外出張者>
出張先国が多数の本感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを、個々の事案に即して判断する。
<海外派遣特別加入者>
国内労働者に準じて判断する。
(基補発 0428 第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて」より抜粋)
2.労災認定の具体的事例
前掲通達が示す通り、感染経路が明確な場合はもちろんですが、感染経路が特定されていなくても、業務による感染の蓋然性が高いと労働基準監督署が判断すれば、労災保険の給付が受けられます。
次に「医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合」について、労災が認められた具体的事例を一部ご紹介します。
小売店販売員
小売店で接客業務を担当しているJさんは、発症前14日間、日々数十人の接客を行い、商品説明等をしていたことから感染リスクが相対的に高い業務と認められた。一方私生活では、日用品の買い物や散歩のほかは外出しておらず、感染リスクは低かったため、接客などの業務によって感染した蓋然性が高く業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。
タクシー乗務員
タクシー業務員のKさんは、発症前14日間、日々数十人の乗客を輸送する業務を行っていたことから、感染リスクが相対的に高い業務と認められた。一方私生活での外出は、日用品の買い物など、感染のリスクは低かったため、密閉された空間での飛沫感染が考えられるなど、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。
調剤薬局
調剤薬局事務員のMさんは、処方箋の受付、会計、データ入力などの業務に従事していたが、発症前の14日間に、受付カウンターで日々数十人の処方箋の受付などの業務を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。一方私生活での外出は、日用品の買い物など、感染リスクは低かったため、受付などの業務によって感染した蓋然性が高く業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。
(厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症に係る労災認定事例」より要約掲載)
3.おわりに
事例の通り、接客など複数人との接点を持つ業務は、従事する労働者の不安も大きいことでしょう。今一度、厚生労働省が提供している「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」などを参照し、感染予防の体制・対策を見直すことをお勧めします。また、感染者が発生した場合に、非感染者への対応や労災申請などをスムーズに進めるため、どのように対応していくかをまとめ、予防策と併せて労働者に伝えておくと不安を払しょくする一助にもなるでしょう。感染症における労災に関してご不安な点がありましたら、お気軽にご相談ください。
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