ハラスメント防止のあり方について
厚生労働省の労働政策審議会は昨年12月、厚生労働大臣に対して『女性の職業生活における活躍の推進及び職場のハラスメント防止対策等の在り方について』建議(意見の申し立て)を行いました。厚生労働省では今後、この建議を踏まえて法案を作成する予定となっています。ここでは、建議の内容について概説してまいります。
1.建議の背景①
「女性の活躍推進・セクシュアルハラスメント」
日本における女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、いわゆるM字カーブを描くことが知られています。また、男女間賃金格差についても依然として開きがある状況で、女性の活躍推進にはまだまだ課題が残っているといえます。 さらに、セクシュアルハラスメントについて、男女雇用機会均等法により事業主には雇用管理上の配慮・措置義務が課されていますが、都道府県労働局に対するセクシュアルハラスメントに関する相談件数は、平成29年度は約7千件と高水準にとどまっています。 そもそも、あらゆる女性が希望に応じて個性と能力を十分に発揮できることは、憲法や女性活躍推進法が目指す「男女の人権が尊重される社会」の実現に必要なことであり、昨今の急激な少子高齢化といった社会情勢の変化が要請することでもあります。職業生活に関する機会の提供や、職業生活と家庭生活の両立を通じて女性の活躍をさらに推進することが、建議の目的のひとつであるのは間違いないでしょう。
2.建議の背景②「パワーハラスメント」
現在、パワーハラスメントに対する法的規制はありませんが、ハラスメント自体が労働者の尊厳や人格を傷つける等の人権に関わる許されない行為であり、企業にとっても経営上の損失に繋がるものです。 嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けたことによる精神障害の労災認定件数は、平成29年度は88件で、前年から増加しています。都道府県労働局に寄せられる職場の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も増加傾向となっています。 職場のパワーハラスメントについては、国による社会的気運を醸成するための周知・啓発等が行われてきましたが、対策を抜本的に強化することが社会的に求められています。
3.今後の対策
労働者のセクシュアルハラスメントに関する相談に対して適切な対応をするため必要な措置を講ずることは、既に事業主に義務付けられていますが、今回の建議では、セクシュアルハラスメントに関する相談を行ったことや、事業主が行うセクシュアルハラスメントの事実関係の確認に協力したこと等を理由とした解雇等不利益な取り扱いの禁止についても、事業主の確実な履行を求めています。この措置については、パワーハラスメントや、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止対策においても講ずることが適当とされました。 また、社外の労働者や顧客等からセクシュアルハラスメントを受けた場合や、逆に、社外の労働者に対しセクシュアルハラスメントを行った場合の対応について、次の事項を指針等で明確にすることも言及されました。
●自社の労働者が社外の労働者や顧客等からセクシュアルハラスメントを受けた場合も、雇用管理上の措置義務の対象となること
●自社の労働者が社外の労働者に対してセクシュアルハラスメントを行わないよう配慮するとともに、当該セクシュアルハラスメントが起こった場合に円滑な問題解決が図られるよう、他社が実施する事実確認や再発防止のための措置に協力するよう努めること
パワーハラスメントについては、業務上の指導や指揮命令との区別が難しく、セクシュアルハラスメントと比べると定義や類型が曖昧です。今回の建議では、職場のパワーハラスメントを以下の3つの要素を満たすものと定義し、それぞれの具体例を指針で示すべきとしました。
①優越的な関係に基づく
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
4.おわりに
今回の建議では、「実効性のある取り組み」、「確実な取り組み」というキーワードが随所に出ています。各企業においては、国の指針や他社の取り組みなどを参考にしながら、コミュニケーションの円滑化や職場環境の改善など、自社で実施できる施策を具体的に行い、実効性のあるハラスメントの防止対策に努めていただければ幸いです。
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