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従業員が突然、辞表を持ってきて、理由もはっきりしないまま退職手続きを済ませました。後から、不正の事実が発覚しましたが、今から退職金の返還を請求できますか。当社では、懲戒解雇者には、退職金を全部・一部支払わないと規定しています。
〜就業規則の文言による〜
懲戒解雇は、企業が科す制裁のうち、最も重いものです。制裁は、就業規則の相対的記載事項の1つで、制裁を科すためにはその種類・程度を明確に規定しておく必要があります(労基法第89条)。しかし、すでに退職している従業員に対し、解雇(従業員たる地位を失わせる)という処分を科しても実質的には意味がありません。
このため、判例でも、「雇用契約が合意により終了している場合、会社の懲戒解雇の意思表示は無効」(ヤチヨコアシステム事件、大阪地判平16・8・6)と述べています。
貴社の従業員も、懲戒解雇を逃れるため、先手を打って辞表を提出したのでしょう。しかし、退職後でも、退職金の支給規定を整備しておけば対処の余地があります。就業規則の相対的記載事項の中には、退職金も含まれます。
解釈例規では、「退職手当について不支給事由または減額事由を設ける場合は、手当の決定および計算の方法に関する事項に該当するので、就業規則に記載する必要がある」(平11・3・31基発第168号)と述べています。
就業規則(退職金規定)のなかで、たとえば「在職中の職務に関し、懲戒解雇事由に相当する事実が明らかになったときは、退職金を支給しないことができる」等の規定があれば、懲戒解雇できなかった場合でも、退職金の全額不支給(減額支給)が可能になります。「既に支給した退職金を返還させることができる」旨の規定があればさらにベターです。
貴社のように「懲戒解雇に限って退職金不支給」という規定では、返還請求は難しいと考えるべきでしょう。
(2010年9月)
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