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会社では、病院を指定して、定期健康診断を受けるよう通知しています。しかし、中高年の中には、毎年、何かと理由をつけては受診しない人がいます。「どうせ、あまり良い結果はでないから」というのですが、こうした人が仮に社内で脳・心疾患で倒れた場合、労災認定を受けられるのでしょうか。
〜給付制限に該当しない〜
問題は大きく分けて2つあります。第1は、「社内で病気で倒れたら、労災と認められるか」という点です。元々、生活習慣病等で脳・心機能に問題のある人の場合、「私病がたまたま職場で発症しただけで、業務起因性がない」と判断される可能性が高くなります。
労災を主張するためには、脳・心疾患等が業務と関連性があると証明しなければなりません。具体的には、いわゆる「過労死認定基準(脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準、平13・12・12基発第1063号)」が示されていて、月80〜100時間以上の時間外労働があった場合等に業務との関連性が高いと評価されます。
業務との関連性が高いとして、通常なら、毎年の定期診断により身体上の問題が発見されるはずです。「本人が健診に行かなかった」という理由で、労災保険給付が出ない可能性があるのでしょうか。
労災保険法第12条の2では、「労働者が、故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、疾病を増進させたときは、保険給付の全部または一部を行わないことができる」と規定しています。健診の未受診は「重大な過失」に該当するか否かがカギを握ります。
この点について、行政解釈では、「事故発生の直接の原因となった行為が、法令(労働基準法、道路交通法など)上の危害防止に関する規定で罰則の付されているものに違反すると認められる場合に適用される」と述べています(昭52・3・30基発第192号)。
安衛法第66条第5項では、「労働者は、事業主が行う健康診断を受けなければならない」と定めています。ただし、罰則は設けられていないので、検診受診の有無は、直接労災認定には関係がありません。
それでは、「受けるか受けないかは、労働者任せ」でよいのでしょうか。労働契約法第5条では、「使用者は、労働者の身体の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする」よう求めています。いわゆる「安全配慮義務」を定めるものです。会社としては、労働者の健康状態を適宜、把握し、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じるべきです。
そういう意味では、単に指定する病院を通知するだけでなく、常習的な欠席者には注意を促す等の記録を残しておくのがベターです。仮に、不幸にして過労死等が発生したとします。遺族の方が、安全配慮義務違反を理由に会社に損害賠償を求めることも考えられます。
この場合、健診を勧奨したこと、それにも関わらず本人が拒否した点を立証すれば、会社に有利な材料となります。
(2010年7月)
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