長時間労働の現状と是正の厳格化について

平成28年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定し公表されました。
その中で、長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化など多くの問題の原因になっていると記されています。また、それに対して「労働基準法については、労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる、いわゆる36(サブロク)協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を開始する。」とし、時間外労働時間について欧州諸国に遜色のない水準を目指すとしています。
なお、OECDが公表した2013年海外諸国の一人当たり平均年間総実労働時間の資料では、日本(1,735時間)となっているのに対して、イギリス(1,669時間)、フランス(1,489時間)、ドイツ(1,388時間)となっています。

「ニッポン一億総活躍プラン」では、長時間労働是正に向けた具体的な規制強化内容は示されていません。ただ、前述の「労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる」との一文にあるように、特別条項付き36協定に関する取扱いが、今後厳しくなるかもしれません。

 通常の36協定が国の定めた限度基準時間の範囲内(1ヶ月45時間、1年360時間など)で時間外労働をさせることができるのに対し、特別条項付き36協定では、特例として特別の事情が生じたときに限り、1年のうち半分(6回)まで限度基準時間を超えた時間外労働(特別延長時間)の設定が可能になるものです。
 ここでの「特別の事情」は、一時的または突発的に、時間外労働を行わせる必要があり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれる臨時的なものに限定されています。
 そして、「限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情をできるだけ具体的に定めること」「延長することができる時間数を短くするように努めること」と利用は限定的になっています。

 しかし、厚労省が公表した報告書に、この特別延長時間について調査したものがありますが、いわゆる健康障害を発症する危険のある時間外労働80時間を超える会社の割合は、「80時間超100時間以下」(14.9%)、「100時間超125時間以下」(3.6%)、「125時間超」(5.7%)と続き、全体の約4分の1を占めているのが現状です。

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 長時間労働是正に向けての国の取り組みは年々強化されてきており、労働基準監督官を大幅に増員して、長時間労働が疑われる企業や過去に過労死などによる労災請求があった企業に対する調査などを積極的に進めています。

 通常、企業に労働基準監督署の調査が入った際に問題点があれば、企業は是正指導を受けて、その改善に取り組むことになります。そして、複数回是正指導されても改善がみられず、悪質と判断された場合に、書類送検や企業名公表となるのが一般的な流れでした。

 しかし、平成27年5月にその見直しが行われて、今年の5月には、千葉労働局において、最初の是正指導の段階で企業名を公表するという事例が出ました。
これは、営業拠点4ヵ所で働く従業員63人に、月100時間を超える時間外労働や休日労働をさせていたと認められたものですが、インターネット全盛の時代において採用を行う際に大きくマイナスになることでしょう。

 他にも、36協定を労働基準監督署に届け出ていなかったり、従業員代表の選出過程が杜撰だったり(企業側が勝手に選出するなど)、協定で定めた時間外労働の限度時間に対する意識が低い(残業代を払っているから問題ないと誤認するなど)ために、規定の時間を超えて就労させ、問題となる事案も散見されます。

 今後、労働時間管理については、従業員の健康面の保持という観点も含めて益々厳しくなっていくでしょう。とはいっても事業の繁閑など、流動的な要素も常につきまとうものです。自社の協定は適法であるか、実態に即しているか、定期的に見直していくことをお薦めします。

 記事投稿日: 2016年09月12日
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